私も履歴書 15 |保存版サークル情報誌を大学新入生に配る。

87年9月半ば。
東京での営業から帰ってきた真田さんが、事務所でタバコに火をつけて、僕に話しを切り出しました。

あの頃の僕は
キャンパス・センサー(リクルート発行)というフリーペーパー設置&配布、、
富士銀行の大学生向けのクレジットカードの入会申込書集め、、
自社の運転免許合宿事業マイライセンスの販促活動、、
メンソールタバコSalemの4本入り試供品や宝酒造のノンアルコールビールBarbicanの配布、、
などで忙しくしてはいました。

ちょうど学園祭の前の時期だったこともあったので、合わせて各大学やディスコでイベントをやる学生サークルやクラブに、サンプリング配布や入会申込書回収のノルマを与えつつ、協賛として対価を配る仕事もやってました。

「加藤、会社を作って3ヶ月ほど、、東京行って、今までの大阪でやってきたイベント制作の報告書やコンサルの実績をみせながら口八丁で仕事を取りに行ってるけど、先方が成果を目で確認でけへんので、なかなか信用して仕事もらうのに時間がかかってる。」

僕はなんだかんだ配布とかの仕事があったのでヒマという認識はないですけど・・・

「しっかりした企画書をつくって見せても、リョーマは設立したばかりやし、俺らは若いので、説得力に欠けるんや。結果、今までの人脈を通じた知り合いに営業の範囲が決まってまう。 これはラチがあかん。」

「だから、しっかりと目に見えるモノをつくることにした。リョーマで大学・短大の新入生を対象にしたサークル情報誌を発行するんや。来年の4月、関西一円の大学・短大の入学式にそれを10万部配布する。これをやれば、ウチにとって確かな実績となり、大きく次に繋がるはずや。」

キャンパス・センサーみたいなフリーペーパーかな・・・ とよぎったところで、見透かしたように、さなさんは続けました。

「雑誌は、簡単に捨てられないような、100ページ以上の背表紙の付いた立派な雑誌=本にする。これから本誌のメインの中味となる、関西一円からあらゆるジャンルの300以上の学生サークルの情報を集めて掲載するんや。新入学の大学生の一番の関心事はサークル選びや。表紙には、サークル情報、保存版、と大きく書く。」

「学生サークルの掲載料金は無料。そして、リョーマとしての収益はすべて広告費で賄うんや。これから営業を開始するで。」

と、ここまで一気に話しを聞いてから、僕はやっと話を割って突っ込めた。

「さなさん、なんとなくわかりました。でも、その雑誌の、10万部もの発行コストはけっこうベラボウではないんですか。広告で賄うといっても、採算に乗せるまでのリスクが大きすぎませんか。」

「せや。だから、そのリスクを東京で回避してきたんや。」

「実はな、今年、信販会社の日本信販が東京に大学生やサークル向けの活動拠点となるスペースを作ったんやけど、その目的は、VISAのついた18歳以上の大学生短大生向けクレジットカード『ViePlan』の普及やねん。
いまウチがやってる富士銀行さんのクラブefカードみたいなやつね。日本信販さんは新年度から、そのカードの入会促進を関西でもやることになったんや。
それをこの企画で、リョーマとして受注してきた。この雑誌は『ViePlanマガジン関西版』という名の冠雑誌になる。だから、このプロジェクトは既に赤字にはならん。で、リョーマとして他に個別で獲った広告は全て粗利益になるっちゅう算段や。」

! なんと、さなさんはこの企画ごと、東京で日本信販に売ってきたのでした。
その雑誌は東京では日本信販自身のハンドリングで発行される、ということなのです。

87年当時、クレジットカード会社各社は新入大学生のクレジットカード発行に血道を上げていました。実際、リョーマは申込書を一枚回収すれば、その人の審査に通れば、ひとり5000~7000円貰えていたのです。 だから日本信販が一人当たりの獲得費用を1万円と見積もり、例えば500枚集めれば500万円の広告費も採算に合う、、と理屈でした。うーん、それは確かに合理。さすが、さなさん。

しかし、、いまリョーマには、さなさんとにしやんと、佐々木さんと鮎ちゃんと僕の5人しかいません。
そんな大それたことが、この陣容でできるのだろうか・・・・

「もう、この話しは西山に話した。加藤、11月からはここのマンションの別の部屋も借りるでぇ。
編集部と営業部を新設して、ViePlanマガジンのプロジェクトスタートや。」

ライオンズマンション新大阪第三の1108号室。
事務所の、さなさんの机のタバコの吸殻はもう、、てんこ盛りになっていました。