日本企業はシンガポールを目指せ! |Hello Singapore2015 インタビュー再掲
2024年となりました。皆様、松の内は充実した日々でしたでしょうか。僕は12月中旬から日本滞在し、東京→燕三条→大阪と大晦日まで駆け抜け、紅白から12日までのんびりと江戸川競艇と表参道で年始を楽しみました。本年もよろしくお願いします。
今回は『Hello Singapore2015』という年刊ムック(2015年版 COMM刊)の巻頭に掲載されたインタビュー(僕自身への応答のみ。一部を抜粋)のデジタル文字起こしを勝手に再掲いたします。後半に10年、20年後のシンガポール経済についての質疑もあるのですが、実際に10年が経って…答え合わせになってる部分や、今になってみて所見が誤ってたと思う点もあり、楽しいです。今に通じるメッセージも幾つもありますね。
インタビューは2014年9月22日に、テン・テンダー氏との対談にて実施されたものですが…この時期は後の人生に大きくかかわっている3名(廣末紀之、和田直希、北浦健伍の各氏)とビットバンク、KAMARQ、AGRIBUDDYを設立した直後。往時の心境も蘇りました。
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(タイトル)日本企業はシンガポールを目指せ!
(ボディ) 世界で最もビジネスがしやすい環境が整っているといわれるシンガポール。ASEAN地域の統括拠点としても、経済発展を続けるASEANの窓口としても注目が集まっているシンガポールの将来性と日本企業にとっての重要性について、日本の経団連に相当するシンガポール事業連盟で最高責任者を務めたテン・テンダーさんと、シンガポールを中心に複数の日本人起業家を資本・経営の両面からサポートしている加藤順彦さんにお話しを伺った。
■ 加藤順彦 ”日本のインバウンド観光は「ビッグバン」とも呼べるほど大きな成長をする可能性がある”
問:シンガポール経済の可能性についてお考えを聞かせてください。
答:政府のかじ取りが素晴らしいと思います。8月のリー・シェンロン首相によるナショナルデースピーチにおいても、シンガポールの抱えている問題を政府が的確にフォーカスしていたことから、将来性は継続してあると感じました。今後はメガトレンドとして、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナムといった人口の多い周辺国がGDPベースで大きく成長するので、シンガポールはASEANのハブとしての役割を今までと同様に果たしつつ、その追い風を受けながらともに成長を続けられるのではないでしょうか。
問:日本の投資家やシンガポール進出を狙う企業は、この国の経済をどう考えているのでしょうか。
答:成長は東南アジアにある、ということは皆さん理解されています。そして、昔のように、生産拠点や安い人件費を求めて進出してくるのではなく、伸びている内需を取りに行きたい、ASEANの成長とともに自社サービス等を伸ばしたいと考えている傾向があるようです。シンガポールの役割を含めたこれまでの20~30年の流れや、ASEANの規制などをよく理解した上で進出してきてほしい。
問:日系企業にとって、シンガポールでこれからチャンスがある業種は何ですか。
答:ASEANではこれから消費財やサービスの需要が伸びます。ASEANの6億人のなかで、年収150~400万円の中間富裕層と呼ばれる世帯が同時多発的に増えるのです。特に人口の多い周辺国で、その層に向けたビジネスを展開する企業がこれから猛烈に増えていくなかで、シンガポールを事業統括会社、企画会社、持株会社として機能させていく企業は多くなると思います。現在伸びている企業、結果の出ている企業はASEANのなかでサービス、IT、製造業、小売業、外食産業の伸びを見越して進出した企業です。シンガポールをハブとして使っていく企業は今後も増えていくでしょう。
人口爆発と所得が増えることで、新しい課題も出てくるでしょう。そのソリューションもビジネスになります。日本には40年前に起きた人口増大を乗り越えた経験があり、これから豊かな生活をする人が増えていく地域でそのノウハウを売っていくことができます。現在、日本で問題となっている高齢化社会の課題解決方法も、これから劇的に高齢化するタイ、マレーシア、フィリピンでも求められるようになる。解決策を開発できるチャンスと考えてほしい。
高齢化が進み、人口が減少していく日本では、成長ドライブは限られています。しかし、そのなかにあって、非常に有望なのは観光産業です。生活レベルが向上していくアジアの人々にとって、日本は目的地になるでしょう。日本のインバウンド観光はこれまで非常に規模が小さかったのですが、これからはビッグバンとも呼べるような、過去と比較にならないくらいの大きな産業になる可能性が高いです。震災直後、訪日観光客は年間700万人まで減りましたが、2013年は1200~1300万人まで回復しました。今後10~20年間は毎年2ケタ成長が見込めると予測されます。5000万人まで増えるのはそう遠い未来ではないと考えます。アジアの人々にとって、日本は『憧れの地』なのです。アジアがこれから豊かになれば、日本に行けるようになります。
また、日本は労働力も足りなくなるので、観光産業だけでなく、労働市場でも変化が起こると思います。労働力としてアジアの人々が入ってくるにあたって、シンガポールがハブとしての役割を果たすと考えています。さらに周辺国の企業が日本に進出するための拠点としてもシンガポールが利用されるでしょう。これからは日本へ進出するためのハブとなる時代が来るはずです。
問:日本企業がシンガポールや東南アジアのマーケットで成功するために何が必要でしょうか。
答:ダイバーシティ(多様性)を理解することが非常に大事です。シンガポールでは、いろいろな人種、宗教、価値観がそれぞれ存在していて、その全てが正しいと考え、共存し合うことで、社会が成立しています。これまでシンガポールが気を配ってうまく進めてきたこのダイバーシティのなかで、日本的な価値観をただ押し付けてもうまくいくはずがありません。これは企業も個人も意識するべきだと思います。
和の精神や思いやりの心といった日本的な価値観は好きですが、皆が同じ価値観ではないということを知るのは重要です。それぞれが違うということを知ることで、お互いに理解し合う気持ちがでてくる。「日本人は単一言語でモノカルチャーの国に育ってるので、この国のダイバーシティは理解できない。」それでは相手の懐には入れません。
日本企業の良い点の1つは「和」という言葉に集約される、ホリスティックなところ。全体が繋がっており、一部であり、全体であるという考えや、企業と社員の関係性を重視する姿勢、これらはアジアでも受け入れられている要素です。私はASEANを飛び回る日々を過ごしていますが、日本人はどこへ行っても良い印象を持たれています。これは諸先輩方の結果であり、日本人が共通して持っている「先人の遺産」です。このメリットを企業も個人もぜひ活かしてほしい。
問:日本企業・日本人のマイナス点はどんなところでしょうか。
答:長所は短所でもあります。みんなで協調することを当然と考え、異端を好まないという日本人の傾向はマイナス要素だと思います。ASEANは違う人の集まりです。信じている神様も価値観も正義も異なるということを受け入れられず、良悪を決めつける姿勢では厳しいでしょう。
問:10年、20年後のシンガポール経済の見通しをどのようにお考えですか。
答:シンガポールという国は壮大な実験をしているようにも感じてます。戦争をせずに政治的にマレーシアから分離独立し、2015年に独立50年を迎えます。みなが英語とマンダリンを喋る国、多様な民族宗教が共存している国、世界を見回してもこのような国は他に存在していません。人口530万人のうち3分の1は外国人で、世界がどんどん都市国家の時代となる中で、これからの都市のあり方のロールモデルになると思います。
都市システムそのものが商品となり、それを輸出するというビジネスが成立しています。このビジネスが将来的に世界へ輸出されていくなかで、日本のインフラ作りのノウハウもシンガポールのインテグレーションを使って海外で活用されるようなことになれば、シンガポール経済はもっと大きくなるはずです。またシンガポールの隣国とのポジショニングについても、輸出できる点だと思います。国土が小さく、資源もない中で、隣国にすべてを依存するのではなく、軍事やエコシステムなど関しても、良好な関係を保つための外交上施策を色々と行っています。「周りの国々とともに」というのはキーワード。シンガポールは隣国との「微妙すぎる関係」を自覚した上で、政治的な努力を積み重ねて周辺諸国とともに成長しています。日本も中国や韓国と協調性を持って、ともに成長できるような関係を築いていって欲しいですね。
問:日本経済の見通しについては、どのようにお考えですか。
答:中長期的に見れば、円安はこれからも進んでいくと思います。今はモノを作って輸出するだけの時代は日本ではとっくに終わっているので、円安に依存して輸出を増やして利益を伸ばそうという考え方は間違っていると気づくべきだと思います。そして、日本ではこれから人口が減り、内需が縮むことにより、あらゆる産業において大手企業だけが生き残って、中小零細企業が潰れていく事態になることが考えられます。日本経済が伸びないであろう今後は自分たちが持っているノウハウや技術を使って積極的に外に出ていくべきです。日本で安く作ってアジアで売るのではなく、アジアでモノを作る、アジアでサービスを売るということをしていかないと成長は見込めません。
またインバウンドは伸びるので、外国人を受け入れていく産業は伸びると思います。
問:最後にシンガポールへの進出を希望する日本企業、シンガポールで働きたいという日本人に対するアドバイスを教えてください。
答:中小企業、スタートアップ、将来性ある若者はシンガポールに直接出てきてほしい。シンガポールの素晴らしい点は、外国企業に挑戦する場を与えてくれることです。ASEANの他の国々では、自国の企業を守るために外国企業に対しそれほどオープンではありません。しかし、シンガポールは外国企業の成長を図ることにより、自国の成長に繋げてきたのです。ぜひこのシンガポールのシステムを活かして、これから豊かになるアジアに果敢に挑戦していくべきだと私は思います。