早稲田大学「シンガポール/アジアのITと社会」最終講義に参加して。現況への所感。

2020年8月30日

8月29日、2001年から19年続いた早稲田大学の全学共通コース「シンガポール/アジアのITと社会」の終了記念シンポジウムにオンライン(ZOOM)参加しました。

(当講義は当初17年間はパナソニック寄付講座。不肖加藤も14ー19年の6年間の講義を毎年一度、『若者よ、アジアのウミガメとなれ』にて担当いたしました。 https://katou.jp/?eid=440 )

先ず基調講演として元EDB副長官(現リサパートナーズアジア会長)チュア・テック・ヒムさんが『アジア諸国のデジタル化が日本に示唆するもの』というテーマでお話しされました。アジアを面で捉えた鳥瞰が深かったです…。チュアさんはたいへんな日本通としても知られている方で、僕もこの12年で何度もお会いしています。

続いて、僕が講師を務める間お世話になっていた山内徹さん(JIPDEC常務理事)が講義。シンガポール、インド、台湾における国民や永住者に付与されているIDと、日本のマイナンバー、マイナンバーカード制度との差異などについて伺いました。

写真は昨年2019年、山内さんが来星された際に、アルビレックス新潟シンガポールのゲーム観戦でご一緒し、試合後にホーカーセンターで撮ったものです。

最後は当講義を19年にわたって運営されてきた田辺孝二さんより、成長を続けてきたシンガポールに見出した『未来創造思考』とこれからの未来創造の方法(ベンチャー立国)についてのお考えを共有いただきました。日本とシンガポールの関係を遡り、出来事や成果を振り返ると共に、現在のシンガポールの方法論について解析を頂きました。

写真は2014年の初講義の際の、大隈像の前での田辺さんとの写真です。

その後の質疑応答のやりとりも含め、さまざまな気づきと発見に富む素晴らしい講義でした。

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2013年の夏休み、田辺先生が引率される履修生のためのシンガポール合宿にてウミガメをお話しさせてもらったことをキッカケに、僕がこの講義に関わるようになって7年が経ちました。僕がシンガポールの様々な成長戦略に惹かれて、居を移してから…もう12年です。
* 日本を出てシンガポールに行こうと決めたのは https://katou.jp/?eid=29

僕はここ20年のシンガポールの成長力の源泉は、
世界中から優秀で、かつ成長意欲と野心がある人材が集まる 仕組み(多様性の寛容) にあったと思っています。アメリカが150年…常に世界のリーダーシップを取ってきたのも同じ理由にあると解釈してました。

同じく、この20年のシンガポールの強さの基盤には優秀な国民が官僚となり、国家を主導したこともあるとみています。これは明治維新からの100年間の日本もとびきり優秀な人材が、官僚、政治家を務めていたこととも符合しています。

一方でバブル経済崩壊後の日本が以降の30年で、国際的に比較相対的に弱体化した根源には、
・世界から優秀な人材が集まらなくなった。
・優秀な人が官僚・政治家を目指さなくなった。
ことがあると感じています。

昨日8月28日、シンガポールは労働ビザ(EP)の最低報酬を4500シンガポールドルに引き上げました。本年4月の発表に続く大幅な切り上げです。この20年、外国人の労働力を自在に巧みに使いこなしてきたシンガポールが、ここにきて、多くの外国人就労者をはじき出そうとしている、と僕は受け止めました。

引き締めは、この先にシンガポールで就労することを目指す若者(=日本発のみならず東南アジア一円の優秀な人材)の夢や野心を打ち砕く、ある意味で絶望的な現実になってないでしょうか。…非常に可能性が薄くなったという気がします。     (まだシンガポールには別枠の起業家ビザは残っていますが。

そして今アメリカも同様に、中国からの留学生のビザを切るなど、外国の優秀な人材へのハードルを大きく上げようとしています。
今までも決してラクではありませんでしたが、これから先の近未来にアメリカの大学で学び、働くことを目指すことは…更に一層、困難になるでしょう。

これらは一義的にはコロナ禍に伴う自国民への雇用対策に他ならないのですが、、、
僕は日本が80~90年代に陥った保護主義(ナショナリズム あるいは ガラパゴスエコノミー)とも繋がり、シンガポールそしてアメリカにとっては、国家としての競争力の弱体化に繋がるのではないか、と 憂いています。

今日の講義にて、そんな僕の思いをぶつけたところ、チュアさんは『いまインドや中国出身の若く優秀な人材は、4500シンガポールドルどころか、その3倍4倍のフィーで就労しているから、外国人就労にとっての最低給与が引き上がっても、シンガポールが諸外国の優秀な人材を集めていくことの悪影響はないよ』と言っておられました。

なるほど!。そうなのな。うー、ほんとに時代がかわったことを感じました。

これからも日本の近未来を担うであろう早稲田大学の学生たちに、シンガポールのITと社会を学んでもらうことは、この先の日本の進むべき方向のヒントになると思うが故に、当講義の終了が惜しまれます。

が! 『国家シンガポールのITへの取り組みと社会システム』が東南アジア地域のリーダーシップを引き続き執っていくことは間違いないと思うので、 きっと多くの方が別の機会をつくっていかれることを期待しています。

田辺先生、山内先生、パナソニック様、そして早稲田大学運営の皆様、ありがとうございました。