私も履歴書 17 |キャンパス・サークル・センター

カレンダーは10月にさしかかっていました。
肌寒さを感じる朝、会社に行くと、2種類の名刺が机の上においてありました。

ひとつの肩書きは
株式会社リョーマ マーケティング事業部  加藤順彦
もうひとつは
キャンパス・サークル・センター  加藤順彦

「なんすか、これ。」

おそらく徹夜明けというか、ミナミから会社に夜中に帰ってきて、そのまま朝を迎えたのであろう真田さんが頭をかきながら、
「あ、それ、お前の新しい名刺。」

「おはようございます。サークル雑誌のやつですか。」

「ああ。来月からViePlanマガジンのスタッフが増えはじめる。例の802号室も11月下旬には入れるで。」

その頃の僕は、いくつかの大学の学園祭に行っては、例の学生向け無料情報誌Campus Sensorや宝焼酎のノンアルコールビールTaKaRaバービカンを配布に行っていました。

各大学での配布のスタッフは、さなさんのミナミの後輩、リョーマ以前にやっていたパーティサークル「なにわ倶楽部」や広告研究会などネットワークで、わらわらと集めていたのですが、、さなさんは、その知り合い・友人からの何人かを、ViePlanマガジンの制作や広告営業に参加してもらうために、どんどん声を掛けていってました。毎晩のように、リクルーティング活動しているようです。

新たに借りる802号室は、その制作スタッフたちの仕事場として使う予定でした。
これから僕はマイライセンスの免許合宿の新規受付や入校手配はこれまで通り1108号室でやりながら、サークル雑誌の仕事は下の階の部屋で「マーケティング事業部」として取り組む、ということなのです。

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ライオンズマンション新大阪第三に事務所を構えて、11ヶ月が経っていました。

さなさんには仮説がありました。

リョーマとしてつくってきた、各大学のキャンパス内や、その近郊の学生の集まる盛り場、あるいはミナミやキタのディスコやプールバーのネットワークは、もともと運転免許合宿の事業(マイライセンス)の販売促進のためでしたが、そういった繋がりを、新製品のサンプリングやポスター貼り、キャンペーン(デモンストレーション)スペースとして使うことの需要は大きいし、ビジネスに出来ればけっこう儲かるはずだ。

実際、東京の西川さんや今井さんから流れてきていたクレジットカードの申込み書集め、新卒青田買いのためのグループインタビューのキャスティング、タバコやアルコール飲料のサンプリング、海外旅行のプロモーションといった「お仕事」は、ちゃんと掘り起こせばまだまだありそうだったのです。

しかしながら、それらの仕事のほとんど全ては東京や大阪のさなさんの先輩・知人・友人経由からの「まわし」でした。
かたや実際にそういったセールスプロモーションやイベントの企画運営業務など受託お仕事の発注元企業に新規の営業にいっても、ほぼ門前払い、成果無しという状況が続いていました。

確かに、いきなりほとんど大学生といった風貌の若造が、見たことも聞いたこともないリョーマなる会社名を名乗って「イベントの仕事下さい」と言ってもそりゃ土台無理があったのでしょう。

さなさんは、その自分たちが企業から相手にされない理由、信用してもらえない理由は「形が見えない」からだと考えていたのです。

例えば同じ受託型の商売でも、建築やデザインなど、仕事の成果物が「形」として残るビジネスは、実績を積み重ねていくうちに、その会社は形が見える会社となっていきます。

ところがリョーマが掲げていた大学生市場むけイベントの制作やコンサルティングは成果物を目で確認できない。いくら能書きや実績を書いた紙を見せても、説得力に欠ける。
結果として、人脈を通じての縁故に営業ルート・範囲が限られ、売上拡大のスピードは遅々として上がらないのだ、と。

さなさんは、リョーマとしてサークル情報誌「ViePlanマガジン」というカタチにのこる成果を世に出すことで、その後の販売促進やイベントの制作受託が大きく加速することになるだろう、とみていました。

(そして実際、このサークル誌をつくったことで、リョーマのセールスプロモーション系の受託事業はその後おおきく販路も認知も広がり、事業も飛躍することになりました。)

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「ところで、このキャンパス・サークル・センターってなんでしたっけ。」

「その名前で、大学サークルの情報を集めるんや。」

「えっ!なんで集めるんでしたっけ。」

「あほか。あんなぁ・・・ViePlanマガジンは大学サークルの情報誌やろう。テニス・スキーのインターカレッジ系サークルを中心に関西一円から300サークルの情報を集めて掲載するんや。」

「300サークル!そんなにどうやって、集めるんですか。」

「ええか、毎年4月、各大学サークルにとっていちばん大事な仕事は新入生の勧誘やろ。
関西学院や同志社、関西大学、神戸大などのインターカレッジ系のサークルはどこも女子大、短大を回ってチラシを配り、声をかけ、勧誘に明け暮れとる。
このViePlanマガジンはそれらのサークルの情報を網羅的に300も集めて、京阪神一円の大学・女子大・短大の入学式の帰り道に校門で配るんや。新入生からも確実に需要がある100ページの豪華なサークルカタログやから捨てられることはない。」

「その本にサークル側は無償で情報が掲載できる、ということを、学生に伝えていけば集められる。ニーズは確実にあんねん。」