シンガポールの「和僑」たち |AERA 2016年1月18日号
勝手に文字起こし=デジタル化 する自身のインタビューシリーズの13回目は、AERA(朝日新聞社)の2016年1月18日号の特集『シンガポールの「和僑」たち 仕事も教育も競争社会で生き抜く』の加藤コメント掲載部分の再掲です。
同じ記事中にはシンガポール和僑会でご一緒している歴代の会長 齋藤真帆さん、関泰二さんらもインタビューに応じておられます。また、こちら僕の掲載写真も、和僑会のメンバーの原隆夫さんに撮ってもらいました。
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シンガポールの「和僑」たち 仕事も教育も競争社会で生き抜く
成長が望めない祖国に見切りをつけ、家族ごと海外に移り住む。「アジアで最も豊かな国」には、そんな日本人が押し寄せる。うらやましくもあるが、決して楽ではない選択だ。そんな生き方を選んだ理由を現地で聞いた。
~ 前略、中略~
シンガポール政府が集積を狙うのは起業だけではない。人材もだ。その磁場になっているのがシンガポール国立大学(NUS)。英教育専門誌による「世界大学ランキング」では昨秋、アジア首位の座を東京大学から奪った。
そのMBAコースには「和僑予備軍」ともいうべき人材が続々と集まっている。数年前まで日本人はほとんどいなかったが、現在では150人余りの学生のうち16人を占める。「グローバルなチームで働くということが実践的に学べる」欧米のビジネススクールではなくNUSを選んだ理由について、日本人学生たちはそう口を揃える。学生の出身国はアジア、ヨーロッパ、ロシア、南米など幅広く、グループワークでは価値観の違いを実感する。ケーススタディーでは、インド市場におけるP&Gのマーケティングや、ネット通販のアリババの資金調達など、アジアビジネスに焦点を当てるのが特徴だ。
不動産会社を休職して留学中の元岡亮さん(33)は、ここで人脈を作り、将来はアジアで働きたいと意気込む。「不動産業界はアベノミクスによる円安で盛り上がっているが、あくまで一時的なもの。人口が減る日本経済については悲観的だからです」
日本版ウミガメの卵
別の男性(35)は、MBAコースで学びながら、現地の広告会社で働く。日本の広告会社に勤務していたころ、会社の業績は右肩下がり。税金・社会保障負担は増える一方で、「このまま日本で生きていくことが楽しいとは思えなかった」 今年、二品に暮らす妻や子どもを呼び寄せる。シンガポールは家賃や学費が東京以上に高いため、決してバラ色ではない。近隣の国も含め、チャレンジできる場を探すつもりだ。
アジアで働きたい、起業したいという若者の面会希望が殺到する日本人がいる。事業家でエンジェル投資家でもある加藤順彦さんだ。1992年に広告会社の日広(現GMO NIKKO)を創業し、08年に同社を譲渡。シンガポールに移住し、日本人によるアジア地域での起業に投資、経営参画してきた。
加藤さんは、ライブドア事件後のベンチャーの大逆風を経験。「若い人の挑戦や成長をつぶしてしまう」空気に嫌気がさして、日本を出国した。そんな日本の閉塞感を変えられるのは「外に飛び出し、世界を知った者だけだ」との思いを強く持つ。
中国では、海外で成功し、祖国に凱旋した起業家を「ウミガメ」と呼ぶ。検索エンジン百度のロビン・リーやアリババのジャック・マーがその代表格だ。加藤さんは、日本人起業家の中から、そういたウミガメ族が生まれることを期待する。
今回取材した和僑たちに聞いた。日本に帰りたいですか? 「いまは考えていない。可能性があるとしたら、アジアに開かれている福岡くらい」(関泰二さん) 「老後はホスピタリティーの素晴らしい日本がいい」(三宅真美さん)10年後、15年後、日本は彼らが帰りたいと思える国になっているだろうか。