伴走し続けてる盟友、築野さんとの格闘の記録。|LEON連載 Vol.9再掲

シンガポールに移ってからの10年、『ASEANで起業する日本人の会社』の資本と経営に参加しているのですが、も一つできれば、というかほぼマストで決めている条件がありまして。

それは投資する社長の年齢が少なくとも5つ以上は歳下であることです。端的にいうと、僕よりは長生きする人に投資したい、と思っており。また生来より年長者には強く言えない、という性分もあり。

あと、若い人に投資するのってシンプルに先が楽しみじゃないですか。爺さんになってからも相手にしてもらえそうだし。SNSでそのことを内外に強めにアピールしていることも奏功してか、日本マーケット向けの事業や(僕より)年長者の方の経営される会社や事業プランの提案はそれ以前に比べて最近はかなり減りました。まぁ、僕自身も50歳を超えて高齢化している証左ではあると思うのですが。

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ビットバレー沸騰中の前世紀末の頃に、ネット広告会社NIKKOを営んでいた僕のところに事業のプレゼンのために訪ねてきた築野雅彦さんから、二度目連絡を貰ったのは2013年9月でした。

その昔、僕は初対面の御仁に対して「そんな事業はうまくいくわけがない」とぼろくそに扱き下ろしてお引き取り願ったらしいのです。築野さんとお会いした際にそのように説明されたのですが、あんまり憶えておらず……。

逆に多くの外野から持て囃されたという往時の事業は、僕の予告通り(?)大失敗したそうで。そのことを鮮烈に記憶していた築野さんは、のちにシンガポールにて起業して作った新サービスを説明し、僕に「今度の企画はどう思いますか」と訊いてきたのです。

第一印象は携帯電話向けのSMS(ショートメッセージサービス)を使った販促サービス、というかASP(アプリケーション サービス プロバイダー)というもので、可もなく不可もなくという感想。

「SMSですか……シンガポールではまだ使われていますよね。まぁ頑張ってください」的な塩対応でお引き取り願おうかなと思いながらお話ししていた刹那、築野さんからこんな話しが出てきました。それはシンガポールで開業したばかりの日系居酒屋さんで求人用として開発したソリューションを利用したら、想定をかなり上回る応募があって良い人が採用できた」というネタでした。

 
なに!? 本当なら凄いじゃん!
シンガポールはASEANを面で捉えるグローバル企業のアジアHQ(ヘッドクオーター)を置く拠点として全世界の優良企業が進出している国です。国を挙げて世界を代表する“高機能な人材”が集中するべく積極的に諸制度(低税率や優遇)を整え、多くのエクセレントカンパニーから高い評価を得ています。

ところが一方、シンガポールという国は1980~90年代の行き過ぎた学力至上主義の反動から、いわゆる低学歴層=低所得層のケアに往生していました。そのため21世紀のシンガポールは民意に敏感なのです。というのも政府施策に批判的な人たちが低所得層に偏っているため。ウルトラリッチな外国人が我が物顔で国中を跋扈していたら嫌にもなるでしょうね、というやつです。

世界屈指の失業率の低さを誇る状況ながら、掃除や飲食、軽作業といったサービス業と、この層の就業機会をうまくマッチングさせる仕組みが、雇う側にも雇われる側にも乏しいことをよく知っていた僕は、築野さんの持ってきた携帯電話キャリアのSMSを利用した、自動やり取りの仕組み(=今でいう自動botやRPAのようなもの)が塚田農場さんに限らず、数多のサービス業と“シンガポールの国民”をマッチするのに本当に有効なら、それはかなりの可能性がある!と閃きました。

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そして翌2014年2月、僕は己のポリシーに反して、5つも歳上のオジサンが経営する会社の資本と経営に参画したのでした。
以来5年、不肖加藤は「SMS247」の運営(主に資本政策と資金繰り)に築野さんと取り組んできました。で、やっぱり年長者と会社をやるのはたいへんでした。
まず、何度指摘しても直らない、そう年寄りは頑固なんです。口では解ったというものの解っていない……僕と同じね。その点で若者は素直でいい。
この「SMS247」という会社は主に飲食の日系企業のシンガポール人の店舗クルーの募集から顧客を徐々に拡げていき、昨今ではドン・キホーテ、サイゼリヤといった日系大手から、マリナベイサンズやSBSトランジットといったシンガポールを代表する大企業まで幅広くご利用いただけるようになっています。

2017年9月の政府公表によると、シンガポールの総人口は561万2,300人。うち国民が343万9,200人、不肖加藤も含む永住者(PR=Permanent Residence=永住権)が52万6,600人。残る人口が、すなわち外国人被雇用者とその扶養家族、メイド、海外からの留学生の合計で164万6,500人となっています。
30%……まさに外国人の労働力に支えられている国なのです。が、彼ら外国人は高度人材=即ち高給取りも、80万人以上いる単純労働者・メイドも、労働ビザがなければシンガポールに住むことも働くこともできません。彼らを雇う側である企業が労働ビザを用意するためには、シンガポール人の頭数を適正に雇用する義務があるのです。

例えば飲食店などサービス業の場合は正社員のシンガポール国民または永住者1人を1とカウントし、月600ドル~賃金のパートタイム雇用を0.5とカウントし、その総和によって外国人雇用ができる単純労働者の数が厳格に決まっています。

 
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シンガポールにあるすべての企業にとって、シンガポール人の雇用というのはとても重要な要素ということが伝わりましたでしょうか。
 
2018年、「SMS247」の開発してきたBPOシステムはシンガポールで最もイケてるHRサービス賞(HRD Recruitment System&Technorogy Award)の金賞、更にHR Vendors of the Year Award Singapore2018の採用ソリューション部門で銀賞(写真)を頂くことができました。
 
ようやく評価してもらえるような結果も出てきたといえるでしょうか。そろそろ長く続く低空飛行から雲抜けしてくれればいいのですが。嬉しいことにここ一年は世界的にSMSの安全性などの特長が再評価されるようになってきました。僕としては築野オジサンには御自愛ください、という気持ちでいっぱいです
 
 
初出:LEON.jp 加藤ポールの 「激動の投資家人生」  https://www.leon.jp/lifestyle/9855  自分の”投資の鉄則”を破った件 No.9  2018年12月25日
追記:その後のSMS247は、 コロナ禍(2020〜2022)の前後も相変わらずシンガポールでのフィジカルワークの採用状況は厳しいままではありましたが、スマートフォンの機能進化やオフラインメディアの衰退と共に利用需要が減退。また築野さん自身のビザ(Employement Pass)の維持が齢60を超えていよいよ非現実的(高すぎる!EP切替時に必要な月給はSGD12,000)になったこともあり…遂に2024年8月、シンガポール在住を途絶、本帰国しました。
前年2023年から、築野さん自身のライフワークとなっていたサイクルツーリズムを日本においてビジネスにするアイデアを、僕と進めてきた築野さんは燕三条に移住。SMS247にて、日本で自転車で旅したいインバウンド向けサービスRollingJPNを運営すると同時に、丸1グループのサンクチュアリ株式会社にて旅行業第三種を取得し、国内旅行事業に参入。
更に折り畳み式自転車にフォーカスしたパーツと輪行用品(搬送用段ボール、輪行バッグ)を企画販売するミツオリ株式会社(旧ダックビル・エンタテインメント。加藤個人で2024年1月に全株取得)の社長も務めています。SMS247のHR事業は今なお継続中です。   (2026年10月12日)