「有価証券の引受け等に関する規則」改正案に反対です

2020年5月19日

 
パブリックコメントなるものを生まれて初めて書きます。僕も個人から出資を受けたらIPOできなくなる日本証券業協会の規則変更案に反対です。

お上にモノ申すなんてことはしたくないとは思っていましたし、パブコメによってナニか変わった試しがないような気もしますが、此度の規制案が、余りにもナンセンスかつ日本のベンチャーに決定的なダメージを与えることになることを心底憂い、文字にいたします。

かのシュンペーターは
「ベンチャーマインド溢れる起業家の挑戦と、起業家へ資金提供する銀行の信用創造が経済を発展させる」と言いました。

しかし日本は土地本位制、連帯保証人制度、実績の国。銀行が事業資金を貸してくれるのは、事業がとてもうまく行っている時だけです。はじめたばかりの時、困っている時、銀行は話も聞いてくれましぇん。

したがって起業家に事業資金を提供できるのは、銀行融資じゃなく、起業家自身とビジネスプランを評価したベンチャーキャピタルであるべきでしょう。

そのベンチャーキャピタルの資金も、投資事業組合を組成し償還期限付きで運用を委託されたものであり、銀行の融資ほどではないけど、スタートアップのベンチャーへの投資は慎重にならざるを得ません。

だから!というわけではないですが、僕は創業当時の運転資金はもっぱらアコムやプロミスといったカードローンに頼っていましたww。創めた当初は、それこそ無我夢中で事業計画もクソもなかったですしねぇ。

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私、加藤順彦は97年から04年までの間、主にネット系のスタートアップ(設立間もない企業)に積極的に投資していました。

この間、実際に投資を検討した会社は400数十社。うち30数社に投資をし、運のいいことにうち9社が上場にこじつけました。

僕が個人として投資した大半の会社は10名未満、設立一年未満の若いベンチャー企業。ベンチャーキャピタルですらまだ手が出せない=検討に至らないような、事業が孵化する前の段階です。

当時経営していた広告会社=NIKKOとしてではなく、個人として出資を引き受けたのは、創業間もないスタートアップ企業(個人)への資本参加は、ある意味で空想小説が如きリスクの塊であり、実現性も低く、とても企業としての投資対象レベルにはない、と見なしていたからです。
(ましてや預金者から集めた資金を運用して利益を出すことを業とする銀行にベンチャー企業への事業資金が求められないのは、言うまでもないでしょう)

とるリスクを自分への挑戦の一環として、「事業計画には論理的な根拠には乏しいけど、お話を伺って自分自身(加藤)がこの人は伸びる!と見込んだ若者のヤル気と可能性に参加したい」という気持ちで、若い後進の意気込みにイッチョ噛んでいました。
だからエンジェル投資というよりは・・その勝負に一口乗った!という感覚です。

だいたい事業計画書っていっても、ペラ紙一枚が大半でした。いやダラダラと数十枚のPPT持ってこられるより、そっちの方が決まりやすかったかしら。

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6月10日、日本証券業協会から『新規公開前に行われる不適切な自己募集を規制するための「有価証券の引受け等に関する規則」等の一部改正について(案)』という文書が公開されました。

この改正案は、まさしく僕のような個人による未上場企業へのエンジェル投資を規制するものであると思います。

スタートアップにとっては現実的な作業とは考え難い「有価証券届出書」「有価証券報告書」が作成されていない限り、親族を除く個人からの投資資金を集めた場合の、その後のIPOを不可とするという規制です。

その背景には  未公開株式の投資勧誘の詐欺事件の多発があるということです。えーそれだけの為にそこまでやろうというのですか?。

しかしこれでは、オレオレ詐欺を規制するために、携帯電話の保有を規制するかのようなことです。

ていうか詐欺を目論む人は、磯崎さんもご指摘のように、最初から上場は狙ってないでしょう。

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ライブドア事件のあった2006年以降、僕個人は、様々な理由から日本のベンチャー企業への投資(資本参加)することを止めました。

日本の新興市場を暗い影が覆っていました。
IPOする会社も急激に減りました。ビットバレーであれだけ加熱した我が国でしたが、事件以降は起業家に対する社会の見方も変わってしまいました。

僕自身もまぁ・・実際には事件の余波もあり、06~08年は本業(広告業)も子会社も業績が悪くなり役員報酬すら受け取れなくなっていました。だから投資なんてしている場合でもなくなったこともあったのですが。

ともあれ、ほんの少し前2006年には163社ものIPOが起き「大公開時代」とまでいわれた日本の新興市場の大ブームは突如終焉しました。3年後の09年実績は僅か19社。投資家もEXITができなくなったのです。

かたやアジアでは未曾有の金融危機から早々に脱出し、何事もなかったかのように、再び活き活きと成長しています。中国の新興市場は大活況を呈しています。ベトナムやマレーシア、インドネシアの新興市場もたいへんな盛り上がりです。

僕はいま、アジアで起業しアジアでの上場を目指す日本人起業家へのエンジェル投資を再開いたしました。

かつて僕が出資してきた起業家たちは、その若さ故、野心と妄想だけで事業をはじめていました。あまりに幼く、あまりにナニもありません。つぅか事業計画の書き方すら知りません。
トーゼン僕のような個人のイッチョカミのだせる資金はわずかです。でも会社も小さいからケチケチ使えばけっこう引っ張れます。引っ張ってる間にベンチャーキャピタルや戦略的な資本提携を提案する企業に持っていける、初期の実績や事業計画を作ればいいのです。

微力ながら・・・僕はそんな手ほどきを、投資先にしてきたつもりです。

此度の規制案は、
そんな無手勝流の創業期と、営利企業からの事業資金を仰ぐ「あいだ」を壊すことなのです。

まぁ、いいですけど。日本の新興市場は壊されたままなので。
・・にしても、悔しいかな。